最高の上司とは
会社から求められる条件、例えば売り上げなどの数字をクリアし、なおかつ部下からも同僚からも経営陣からも慕われる人。「最高の上司」という言葉からは、そういった人物像がイメージできます。
そんな上司がしていることは、対話と自己開示です。アンガーマネジメントも必要なスキルの一つと考えられます。ただただ怒っている上司って、多いですから。その根底にあるのは、「悪いのは周囲(部下や環境)」だという思い。でも、数字が伸びない、部下の成長が感じられない、社員の定着率が低い……。そんな状況にあるなら、やはり何かを変える必要があります。
では、何を?
今の延長とは違う未来が欲しいと思われる方がセッションにいらしたときには、目指す未来像、それを現実にしていく戦略をお話ししながら作っていきますが、その中に変えなければいけない“何か”への気づきがあります。
部下とのコミュニケーション術
戦略の中に必ず含まれるものの一つが、人材戦略。部下たちがどう頑張れるか、自分が描く未来に向かって皆をどうしたら巻き込めるか。これは、部下との対話から見えてきます。もちろん対話は、双方向で行われなければなりませんし、それはお互いの信頼関係の上に存在するものです。
皆さんは、人と関係を作ることに恐れを抱いていませんか? 信頼しているのは自分だけかも……。そんな不安、恐れは手放しましょう。望む未来への可能性を、恐れがつぶしてしまうかもしれません。
人を信頼した結果、想定していない方向に進むこともあります。悪い結果が出てしまうこともあります。しかし、それは信頼が悪いのではなく、信頼のもとに舵を切った結果であり、その状況を変えるべく自分が責任を取り、構築されている信頼関係はそのままに新たに別の施策を考えればいいのです。
残念ながら部下との信頼関係が構築されていないという方。部下から信頼されるために、思い込みを横に置いてください。
例えば、Aさんにプロジェクトを任せたけれども、あまりいい結果が出せなかった。だから、「Aさんはプロジェクトマネジメントができない」と思い込んでしまったとします。
確かにプロジェクトマネジメントはうまくできなかったかもしれませんが、思い込みをなくせば、うまくいかなかった部分にどんなサポートが必要なのか、踏み込んだコミュニケーションができるのです。また、思い込みによって、目の前にいる人が何を言っているのか、正しく聞こえていない、理解できていない可能性もあります。
「この人はできない」という烙印を押されてしまったAさんも、モチベーションが維持できず、辞めてしまうことも。思い込みは信頼関係を崩壊させる一因です。
コミュニケーションは1on1で?
部下とのコミュニケーション? では、最近よく聞く1on1で! それも間違いではありませんが、もっと大切なことがあります。それは、短い対話の機会をいかに持てるか、です。
どんなことでも、ネットワーク上の会話でも、かまいません。「今日、あまり元気がないようだけど大丈夫?」でも「昨日、お子さんの入学式だったよね。おめでとう」でもいいのです。短い対話を重ねていくことで、人を知り、強みを知り、強みが生かされているポイントを見過ごさなくなり、承認できるようになります。
コミュニケーションに必要なのは、そのための時間を長く取ることではなく、短くてもいいので対話すること、受け止めること、承認、迎合ではなく対等、聴く力。これらができているコミュニケーションは、関係性を向上させます。
人は皆それぞれに違いがあり、組織作りはそれを理解して行わなければなりません。つまり、多様性の理解です。多様性を理解した上で、組織の短期・長期の目標にどうつなげられるか。一人では考えがうまくまとまらないときは、ワークショップや部下の成長を促進するストレングスファインダー®(現「クリフトンストレングス」)などを用いてみるのもいいですね。
部下との心の距離を感じたら
上司と部下のコミュニケーションにおいて、部下として言いづらいことがあった場合、沈黙の時間が流れることも。沈黙は、部下が考えている時間です。そのときに上司が心がけたいのは、心地よい空間を作ること。場を共有していることこそが信頼関係の構築につながります。
沈黙する部下の表情が曇っていたり、視線が下がっていたり。これらは、何か言いにくいことや言いにくい状況があるサインでもあるので、日時や場所をリセットしてみては? 「ちょっと会社を出ようか」「カフェ、行く?」などといった提案をしてみましょう。
日時や場所のリセットが、部下との心の距離を縮めることも。先日も、社内では話しづらいからと、会社近くの公園を散歩しながら話したという経営者の方がいらっしゃいました。そこでは、普段言えないようなことがいろいろな方向から出てきて、とてもいい対話になった、と。物理的に何かを変えることが、いい関係性構築の一つの手段になったのです。
「散歩はいやです」と言われるかもしれません。でもそれで、「散歩はいや」という部下の情報を得たわけです。こちらの提案に何かしらの返しがあるのが、双方向のコミュニケーション。増えれば増えるほど信頼度も増します。
返しがなくなったら赤信号! その部下とコミュニケーションが取れる誰かを投入する必要があります。
評価をするということ
心理的安全性が確立されていても、社内におけるポジションはなくなりませんし、上司は部下を評価する権限を持っています。それだけで部下への“圧”になることを忘れないようにしましょう。そして、ここでも思い込みを捨てる。自分の思い込みからの評価は、最もしてはいけないことです。
評価の基準は、会社の方向性と現状の部下のアクションのマッチ度、アクションの中でも結果とプロセスの両面がベスト。そのためには部下からのヒアリングも欠かせません。ただし、ヒアリングでは部下自身の思い込みが入った説明になりますから、上司は客観的にアクションを見ましょう。頻度高く部下のアクションを見守る、理解することが大切です。
評価の際には、フィードバックを要することも。「フィードバックがある」と聞けば、自分を守ろうとするのが人間の心理。恐れを持ったり、身構えたりしてしまいますから、もっと成長できると確信しているからフィードバックするのだということを必ず伝えてください。
AさんがZ世代から慕われる上司である理由
本部長・Aさんの部下に入社3年目のBさんがいました。ある日、突然出社しなくなったBさん。直属の上司である部長にもなんの話もなく、電話にも出ない。人事部からの電話にも出ません。そんなBさんが唯一話すのが、心理的安全性の確立に取り組んできたAさんでした。
Aさんが私とのコーチングセッションを始めたきっかけは、「Z世代(=Bさん世代)にどう対応していけばいいのかわからない」という思いから。そこから、Z世代が求めているのは成長実感で、そのために必要な環境をセッションで考えていきました。
結果、心理的安全性が必要だということに。日常的にその環境を作れれば、Z世代がどんな成長を望んでいるのかを上司に話せますし、上司はそれを支援したいと伝えられます。
心理的安全性が成り立つ環境作りを約10か月、続けてきたAさん。そんな中で起きたのが、Bさんの突然の出社拒否です。Aさんからの電話にだけ出るBさんとの対話が今も続いていますが、Aさんは思い込みを横に置くことを意識しています。
例えば、Aさんの頭には、「人事部からの電話に出ないとは何事だ」という思いが先に浮かびます。しかし、Bさんと話すときには、「これは自分の思い込みなんだ」と認知して、横に置いたのです。その認知こそが、Bさんとの対話がAさんとのみ成り立つ要因、心理的安全性の場だったのです。そして、『まず、Bさんに何が起きているのか、何を思って、考えているのかを聴こう』という立場だけに立ったのです。
謙虚な姿勢と自己開示でパワハラを回避したCさん
とても仕事ができる、Cさん。新規事業を行う新設部署の本部長に任命され、心理的安全性の確立に努めています。ただ、Cさんは、いるだけで相手に圧を感じさせてしまう人でした。
それを自覚しているCさんは、最初に「僕はいるだけで圧があるといろいろな人から言われます。妻からも娘からも言われています。皆さんも圧を感じたら、すぐにそう言ってください」と謙虚に自己開示しました。
加えて、Cさんは頭の回転も早いため、話の途中で結論が見えてしまい、相手の言葉が終わらないうちに被せて話してしまうところが。その話し方も改善し、ひと呼吸おくようになりました。これらによって、Cさんの部署は部下が安心して話ができる環境ができ、社内でトップクラスの高いエンゲージ指数を示すようになったそうです。
部下のモチベーションアップのために最高の上司ができること
高いパフォーマンスを発揮する心理的安全性が確立された組織では、チームの内的モチベーションをいかに上げられるかを最初に考えます。そうすることで、結果的に顧客の期待以上のものを自然と生み出せるのです。
そんなチームにするために上司は、個々のモチベーションがどんなことなのかを知り、一人ひとりへの投資を。チームでの対話も大切です。そして、チームにしても個人対個人にしても、組織内に“開く”文化があること。一番最初に述べました。最高の上司がしていることは、対話と自己開示だと。
組織内に“開く”文化があると、その組織の『新たな可能性』が開き、自然と新しいアイデア、イノベーション、効率も生まれます。
文化は生き物。トレーニングやコーチングを受けたからといって、明日すぐにすべてが薔薇色にはなりません。すぐに結果が出るものではありませんから、時間をかけてもいいのだという余裕をもちましょう。余裕がないと、人は人を責めます。責める相手は自分という人も、他人という人もいますが、誰を責めてもいい結果には結びつきません。
焦らずゆっくりと。それを心に、最高の上司への取り組みを始めてみませんか?
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