一歩踏み込んだ1on1が組織にもたらす変化
1on1を始めたばかりの頃は、相手と話すことに集中し、ほかまで目が届かないという方も多いのではないでしょうか。しかし、対話を重ねて信頼関係が構築できてくると、1on1でキャッチできる情報は格段に増えていきます。
その一つが、心身の健全性。部下に何か変わった様子があれば気づけるようになってきます。また、部下側も口にしづらかったことを話しやすくなりますし、問いづらかったことも聞けるように。
例えば、「今、職場での充足度はどれくらい?」なんて質問。このような問いによって、部下は自分自身をチェックできますし、回答によっては上司や同じチームのメンバーがフォローに回ったり原因を取り除いたり。部下が心身に不調をきたすことを阻止できる可能性が高くなります。つまり、これまでは問題が起きてから対処していたのに対し、問題自体を未然に防ぐことができるのです。
1on1の定着と信頼関係の構築が組織内に生むのは、“人に話せる安心感”。これにより、チーム内のコラボレーションが進みやすくなるとともに、心身ともに健全で、より高いパフォーマンスが引き出せます。
悩み、行き詰まった部下へのシーン別フィードバック
1.聴く
「つらそうだけど何かあるの?」
「何か困っているの?」
↓ さらに詳しく聴く
・何が起きて、困難なことは何なのか
・チャレンジングなのはどこなのか
↓ 回答に対して
・どんな対応をしたのか
・その対処において、うまくいかなかったことは?
↓
・その状況で、何か一つでも上手くいっていること、いったことがあるとしたら、何か?
2.承認する
「ここまで説明してくれて、ありがとうございます」
3.気づきを促す
「ここまで話をして今、どんなことを感じていますか?」
「話しをしていて、気づいたことはある?」
↓ 反省点や解決策が見えてこなかったら
「一緒に考えよう」
↓
最終的に本人がもっていきたい状態、望む状態を言語化
↓
そこにたどり着くために必要なこと、リソース等のピックアップ
↓
アクションステップを作る
絶対NG:否定
部下から「困っています」と言い出すこともあるかもしれませんが、その前に異変を察知したら、まずは本人に聞いてみましょう。信頼関係がある他者に話すことで自分自身を俯瞰し、問題を客観的にとらえられる可能性が高くなります。
それにより、例えば、言ってはいけないことを言ってしまった、連絡が遅かった、といった気づきが。ただ、「どうしたらいいのかわからない」という言葉が返ってくることもあるでしょう。そのときは、「一緒に考えよう」のひとことを。これが部下にとっての安心感になります。
そして、理想とする状態を部下に言語化してもらい、そのために必要な事柄がピックアップできたら時系列に並べ、それぞれの段階で誰がそれを行うのかを具体的に、部下とともに考えていきましょう。
否定と思い込みを排除して寄り添ったG部長
部下との信頼関係をうまく築けている、部長クラスのGさん。部下は1on1で困っている問題をGさんに話してくれます。ただ、Gさんはつい言ってしまうのです。
「そんなやり方だからダメなんだよ」と。
Gさんの中には、苦労してきた自分の言うとおりにやっていれば、部下は苦労せずに済むはずだという強固な仮説があったのです。しかし、そう言われた部下から返ってくるのは、「それはGさんだからできたんですよ」という言葉。
Gさんは、せっかく自分がいいアイデアを与えているのに全く伝わらないと思っていました。そんなGさんがコーチングセッションを行って気づいたのは、実は自分の思い込みを部下に押し付けていただけだということ。
そうしてGさんは、部下に寄り添い、部下がどのようにすれば問題が解決できるのかを考えるように。現在も、問題解決に向けて部下と対話中ですが、手応えは感じているようです。
モチベーションが上がらない部下とのシーン別フィードバック
モチベーションダウン中のありがちな返事
「最近、仕事はどんな状況ですか?」
→「まあまあです」「特に何も」「別に」
A.モチベーションを探る
相手への好奇心をフル稼働し、様々な方向に糸を垂らして探りましょう。
例えば……
- どんなことに興味があるの?
- 仕事以外で興味があるのはどんなこと?
- 何をしているときが楽しい?
- 小さいときは、どんなことに興味があったの?
- 小さいときの夢は?
- 何か習い事をしてた?
- どんなことがあったら、今の環境でうれしいなと思える?
など。
B.とにかく聞く
モチベーションを下げている原因が不満の場合は、とにかく聞きます。1回で聞ききれなかったら、もう一度1on1の時間を設けましょう。とにかく聴く。全部聴く。
絶対NG:「そんな○○だったら+否定」
例/「そんな働き方だったら誰からも認められないよ」「そんなだったら昇進できないよ」
絶対NG:反論
特に、不満に原因があるとき。反論したくなるポイントが所々出てくる可能性がありますが、一旦すべてを飲み込みましょう。全部聴くまでは聴き切ってください。それから、伝えたいことを伝えます。
そもそも信頼関係がないことが、モチベーションの低さにつながっている可能性も。それだけに、上司から仕事以外のことを聞かれると構えてしまいますが、話しやすそうなことを根気よく探して聞いていきましょう。1回で思うとおりの話ができると思わないで。継続が大切です。
話す相手のモチベーションが低いと、引きずられてしまうこともあります。しかし、相手のモチベーションが上がることで、チームとして、上長としての自分が目指す方向に進めるか、その可能性を見出して食い止めてください。
部下にとっては、直属の上司ではないほうが話しやすいこともあるので、隣の部の上長に話をしてもらうのも手です。
マネジメント職として必要な力と、身につける方法
前回、1on1において必要とされるのは、コミュニケーション力、傾聴力、オープンマインド力、フレキシブルさ、寄り添い力、承認、コーチング力とお伝えしました。
これらはそのまま、マネジメント職にも必要な力といえますし、身につけるためには相手への好奇心が大切であることも、前回お伝えしたとおりです。
これらの力は、部下のエンゲージメントに影響します。中には、なぜ部下のエンゲージメントを自分が上げなければいけないのだ、と思う方もいるかもしれませんが、もっと大局を考えてください。
部下のエンゲージメントが高くなることで、自身が志す”向かう方向”に行けるのです。そういった大局を見て考えられる力も重要。マネジメントは、どれだけうまく人を活用できるか肝心ですから、俯瞰からの視点も持つ必要があり、それらもマネジメント職に必要な力を底上げします。
マネジメント職がエンゲージメント最大化のために取り組みたいこと
マネジメント職は、組織に対する自分自身のビジョンを構築し、実現化した上で達成への道を俯瞰して考える必要があります。それを考える時間を持てていますか?
そもそも1on1は、信頼関係を築く手段の一つで、信頼関係は心理的安全性を担保するもの。心理的安全性が確立された組織では、エンゲージメントも高くなりますし、メンバーが高いパフォーマンスを発揮することにより、結果が期待できます。
つまり、1on1の実施や心理的安全性の確立は、ビジョン達成への早道。1on1の先にあるビジョンを、まずしっかり描いてください。
自分のやり方で営業成績を伸ばしてきたプレイヤーがマネジメント職に就いたら失速というのはよくある話。先ほども述べたとおり、マネジメントは組織として人を通して成果を作る。それが仕事です。
そのために取り組みたいことの一つは、マネジメントやリーダーシップについての学び。学びたいと思ったら、学べます。学びたいと思うきっかけは、気づきではないでしょうか。自分のやり方はズレていたのだという気づきが、自身をどう変えるかにつながっていきます。
では、どうすれば自分のやり方がズレていると気づけるのか。結果が出ていなければ、それは大きなサイン。人からの評価、書籍、コーチングセッションで気づく方も多くいます。
何かを変えなければと思ったときがチャンス。自分に合った方法で取り組み始めてみませんか?
部下との対話を深めたり、チームビルディングに役立つ手法をワークショップ形式で身に着けられる「トランスフォームコーチング ベーシック講座」も参考にしていただけたらと思います。
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