ビジョナリーカンパニー

自社をビジョナリーカンパニーにするために何から始めればいいか

自社をビジョナリーカンパニーにするために何から始めればいいか

苦しい状況のときに立ち戻りたい基本の考え方

「経営チームの一体感がない」「売上が下がってきたけど、このままでいいのか不安」「社員が辞めていく」

起業して間もない頃は、やみくもにがんばることで乗り越えられることもありますが、何年か経つとそれだけでは立ち往かない状況が訪れることも。そんなとき「ビジョナリー・カンパニー」の考え方が役に立ちます。「ビジョナリー・カンパニー」とはジム・コリンズ著作の大ベストセラーですが、組織運営の考え方として2つ挙げています。

  • 「基本理念を信じる者」を組織に集め、その中から「経営幹部が基本理念に共感し、コミット」することから組織力の基盤を創る
  • 社運を賭けた大胆な目標(BHAG)に挑戦し、沢山の試行を行い、上手くいったものを残す。そして、絶え間ない改善に取り組む

BHAG(ビーヘグ)とは、Big Hairy Audacious Goal の略語で、「とてつもなく大きく、身の毛もよだつような大胆なゴール」を意味します。人々の意欲を引き出し、心を動かす社運を賭けたダイナミックな目標、それがBHAGです。やみくもで力任せの経営、とにかく気力で走り続ける経営から、人の心を動かす経営に変える方法のひとつです。

その例をご紹介します。

コロナ禍で窮地に陥った経営者Aさんの話

今までBHAGを持たずにいた方がBHAGを設定すると、状況を変えるきっかけが生まれるケースがとても多いです。

小さな会社の経営者のAさんは起業して10年、アップダウンを数々経験しながら会社を経営していましたが、コロナ禍で大打撃を受けました。売上はないのに、ただ時間が過ぎるだけで月300万円のマイナス。メンタルはボロボロです。

Aさんは私のもとにやってきて状況を説明し、メンタルの立て直しを図りたいとお話ししました。私が提案したのはBHAGの設定です。Aさんは頭が混乱していてそれどころではありませんでしたが、起業の原点を探るところからセッションを開始。会社をどうしたいか決められるのは経営者だけです。そこがぶれている状態にあった彼は、セッションを通じて自分を取り戻し、描いていた世界観や夢を思い出しました。Aさんは夢があったから起業したこと自体を忘れていたのです。そこで夢を改めて言語化し、かつ起業し10年経ち、今の自分の目線から未来に向かってのBHAGを設定、ロードマップを作りました。

BHAGを決めると何が起こるか

起業したときの夢をもとに「とてつもなく大きく、身の毛もよだつような大胆なゴール」のBHAG設定をしたAさんは、目先の売上や機会に目が行ってしまう状況から脱し、会社が目指すべき“北極星”が明確になりました。結果、売上はコロナ禍以前の3倍に上がりました。

Aさんがしたのは、BHAGをベースにした自分の想いを、社員のみなさんに共有し、チームを作り直すことでした。

伝えることで社の目指すところはひとつだと共通認識ができ、目標となる“北極星”が明確になったそう。そうなってからの社員のみなさんの動きが早かった。会社にとってのBHAGとロードマップをみなさんが作り、自分たちの現在地を確認。「3か月後にはこうなっているから、半年後にはこうだよね」とイメージがどんどん作られ、これから自分たちがどうしたいか、“会社の未来地図”を作っていったのです。それをもとに、現場で販促や営業の戦略が練られ、次々と実行されていきました。

Aさんは危機に陥る前も社員のみなさんに自分の想いを伝えていたつもりだったと話していましたが、今思えば全然伝わっていなかったと言います。実際、社員からも「やっと社長の考えていることがわかった」「未来を明確に共有してくれてうれしい」という言葉もありました。

「自分が伝えるべきは“会社が目指す北極星”だったのに、見せていたのは”月”だった。あるときは上弦の月、あるときは満月、あるいは月食だったり。変わらない強い軸、つまり北極星を見せ続けるのが自分の役割だとよくわかりました」

BHAG設定で思わぬ起業に至ったBさんの話

Bさんはとある上場企業の技術者として働いていました。新卒で入社し、長く勤める人生設計を持っています。その仕事が大好きなBさんは仕事と趣味が混同したような状態で、プライベートでも新たな技術を研究しながら楽しく暮らしていました。

あるとき、彼はとある技術を開発します。その技術は彼自身の興味関心のある分野での研究成果。会社に提供すれば社内でのご自身の立場も安定しますし、長く勤める際のいい材料になることはわかっています。

「でも、なんか違う気がする。どうしよう……」

セッションでその話を聞いた私は、Bさんに改めてBHAG設定を提案しました。彼のBHAGに関わる言葉で印象的だったのは、「誰も開発していない何かを開発したい」でした。その想いが根幹にあったから、Bさんはご自身の研究や技術開発を無意識にプライベートでも続けてきたのでしょう。深掘りを続けていくと次第に想いが明確になり、BHAG設定ができました。

その後まもなくのことです。

Bさんにはスカウトから転職の誘いが頻繁に来るようになり、VC(ベンチャーキャピタル)に転職。開発していた新しい技術は、今の会社と契約を結んで利益の一部を受け取る形の提案もできましたが、BHAG設定を経ていたBさんは、ご自身で特許を申請し、起業することにしました。

彼の小さなアイディアは、何十億にもなるプロダクトになることがわかったからです。それこそ、「誰も開発していない何かを開発したい」Bさんの想いが実現した成果です。

経営者がビジョナリーカンパニーを作るためにできること

Aさんは会社のありかた自体が進化し、Bさんは思いもよらない方向に人生が一変。どちらも「ビジョナリーカンパニー」の神髄に基づく行動です。その神髄はこう。

  • 「基本理念を信じる者」を組織に集め、その中から「経営幹部が基本理念に共感し、コミット」することから組織力の基盤を創る
  • 社運を賭けた大胆な目標(BHAG)に挑戦し、沢山の試行を行い、上手くいったものを残す。そして、絶え間ない改善に取り組む

と言っても、少し硬いですよね。経営者は、具体的には何をすればいいでしょうか。コーチングのセッションでお伝えするときは、こんなステップを踏んでいきましょうとお話しします。

・経営者自身のBHAGを設定する

・社運を賭けた大胆な目標(会社のBHAG)を設定する

・実現に必要なロードマップを引く

・経営者の想いを経営チームや社員のみなさんに共有する

・人の配置を見直し、新たなチーム作りに取り組む

大切なのはチーム作りです。英語版の「ビジョナリーカンパニー」では「正しい人材、正しい椅子の配置、正しいことをする」という言い方をしますが、日本語で言う適材適所のことです。

組織が成長するにつれ、正しい人物を適正なポジションに置く重要性が増します。シンプルですが、意外とこれができていない企業は多いです。その人物が仕事ができるできないはもちろん、適切な仕事量になっているかどうかも。

「正しい椅子」の配置を考える

ひとり一人が北極星を目指して進むことが明確になると、社内の実行スピードが段違いに上がります。そんな時に起こるのが、社内での決裁や権限がボトルネックになる事態です。正しいポジションに正しい人物が配置されていれば、北極星と照らし合わせて決裁もすぐ出せるのですが、そうでない場合は膠着状態になってしまいます。また、能力があっても、会社の都合で「正しくない椅子」に座ることになる方もいます。

ですので、ひとり一人の社員の方が何が得意で、何をしたいかを見極め、「正しい椅子」に座ってもらえるチーム作りに取り組むことが経営者の重要な課題です。人は会社がもつ最大の資産です。正しく運用することで利益を生みますが、腐ってしまうと負債になってしまいます。

飛行機がわかりやすい例だと思いますが、機長、副操縦士、キャビンクルーは、座る椅子とその役割がはっきりと異なります。キャビンクルーは機長の席に代理で座ることはできませんし、逆もまたしかり。本来座るべき椅子に座ってこそ、人はその力を発揮できるのです。

いつまでにどうなりたいかを描いたら、椅子の配置を見直し、「正しい椅子」の配置を再考してください。「ビジョナリーカンパニー」は、BHAGと「正しい椅子」から始まります。

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