心理的安全性とは
アイデアや質問、失敗……。そういったことが気兼ねなく言え、「言ってくれてありがとう」と歓迎し、受け止めてもらえる。そんな環境にあるものが、心理的安全性です。組織に属するそれぞれに、意見が言いやすい、聞いてもらえる、他者を理解できる、他者への好奇心が強いといった体感があればあるほど心理的安全性は高いといえます。
心理的安全性が担保された組織では、個々人のパフォーマンスがよくなり、その先には成果が。様々なアイデアが出てくることにより、イノベーションも生まれる可能性が高くなります。
しかし、とにかくなんでも発言すればいいというものではありません。仕事へのコミットメントが必要です。心理的安全性だけが担保されていても、それはただの仲良しサークルの活動。利益を追求し、社会に貢献する組織、仕事へのコミットメントがあって初めて、高いパフォーマンスが発揮されるのです。
逆に、心理的安全性のない組織では、無気力になったり、殺伐としたり。営業部で個人の数字を競う職場がありますが、それでは個々の成績を伸ばすことが目標になってしまいます。
短期的には数字が伸びるでしょうけれど、中長期的な組織のビジョンとは乖離する可能性が高くなると同時に、頑張ってきた社員もある段階でバーンアウトしてしまう、ほかからお声がかかって組織を離れてしまうということになりかねません。
心理的安全性と組織文化の関係
心理的安全性が高い組織には以下のような組織文化があるといえます。
・チャレンジができる
・意見が忌憚なく言える
・不正解が存在しない
・2つの意見が出されたとき、両方あっていいと受け止められる
・相互に尊敬がある
・失敗が許される
・イノベーションが生まれる
・多様な人財が集まりやすい
すべて読んで字の如しですが、「失敗が許される」というのは、セカンドチャンスが常にあり、叱責への恐怖がないということです。つまり、お叱りは愛の言葉だと受け入れられること。そのためには良好な関係性が築かれていなければなりません。良好な関係性は心理的安全性があるからこそ育まれるものです。
心理的安全性が担保されていれば、こういった組織文化ができ、その結果、
・無駄がなくなり、効率がよくなる
様々な場で活発にディスカッションが行われる可能性が高くなり、話すこともないのにスケジューリングされているからミーティングをしなければ……といった無駄がなくなります。
・ハラスメントがなくなる
ハラスメントが成立する条件は、受け手側が精神的・身体的苦痛を与えられた、職場環境が悪化したと感じること。叱責への恐怖と同様、良好な関係性があることにより、受け手の感じ方もかわります。
といったことにもつながっていくのです。
心理的安全性が組織にもたらす変化
先に挙げた効果のほか、心理的安全性の有無で組織間に差が出るのが、離職率です。
心理的安全性の低い組織は離職率が高くなります。転職は悪いことではありません。転職によってステップアップされる方も多いでしょう。しかし、退職者が出れば人員補充が必要になり、採用コストがかかります。採用後の育成もしなければなりません。
逆に、心理的安全性が高ければ、個々が成長しながら組織に定着。組織コミットメントが高い集団が形成されます。
心理的安全性の高い組織は、他者に興味を持ち、理解し、リスペクトできる組織。相互にサポートし、補完されることで組織は強くなり、個々も強みやスキルを伸ばしていくことができます。
心理的安全性が高い組織を作るには
一番は、トップダウンです。ただし、「心理的安全性のある組織にします。皆、頑張って」ではいけません。
トップダウンの意味は、まず、トップが自己開示をすること。自分の中で心地の良いことも、悪いこと皆と共有します。といっても、急には難しいかもしれませんから、そのための場を作り始めてみては? 1on1、あるいはチームごとに。それぞれが自己開示できる環境を作り、相手がどんな状況にいて何を思うのかに耳を傾けましょう。
ストレングスファインダー®(クリフトンストレングス)のようなツールを使うのもいいですね。それにより出てきたレポートを相互に読み合う。そんなワークショップやコーチングを、心理的安全性を担保するために取り入れている企業もあります。
約100人と1on1を実施し、予算達成率が130%に
トップダウンで取り組みが始まった例を紹介しましょう。
これまでは課されたことをするのみ。そのための差配が自分の仕事で、メンバーがどんなことを思っていても関係なかった、あるIT企業の本部長・Aさん。100人規模の部下を抱える彼は、セッションを重ねる中で『心理的安全性を高めよう! そのために何から始めるか?』を考えるように。
Aさんが至ったのは、心理的安全性を作っていきたい、そのための施策として部下全員と1on1の時間を作ると、まず宣言すること。
そして、実際に1on1を行い、仕事の状況、チャレンジしたいこと、仕事や自分に対するリクエストなどを聞きました。Aさんは、1on1を通じて皆が考えていることを知れたと喜び、部内のコミュニケーションも活発に。結果、予算の130%を達成しました。
セッションを通してマネジメントが以前とはまったく変わったとAさんはいいます。
人間は変えようと思えば自分を変えられる。自分のコミットメントによって、自分が変化し、個々人の変化から、組織文化の変化へと繋がります。心理的安全性が今はまったくない組織でも、創ろうと思えば創れるのです。
エンゲージメント指数社内1位
コーチングを受けて自身が変わろう、謙虚になり物事を俯瞰で見ようという意識が強くあるBさん。大企業の新規事業を行う新規部署の本部長に若くして抜擢・任命され、中途採用で多様な人材が活躍し、成果を出せる部署を目指すことに。
ただ、新たに入ってきた人たちの集まりで、お互いをよく知りませんから、Bさんは心理的安全性が必須だと考えました。
そこでBさんが設けたのが、週1回の皆でビールを飲む時間。単にビールを飲むだけではなく、自分のヒストリーをプレゼンしてもらうことにしたのです。これにより、部内の風通しはよくなりました。
また、Bさんは、ストレングスファインダー®のワークショップも行い、組織の目標に対して個々が行うアクション、必要とするサポートを言語化。様々なことが明らかになり、チームの編成を変えたりもしました。
その結果が表れたのは、エンゲージメント指数。全社内で1位になったのです。
自己不在に陥ったナンバー2の自己肯定感が復活
トップではなくナンバー2が動き出し、成功に向かっている例も。
その組織のトップはとても多忙。どんどん新しいことをやりたい人で、下に新しい施策を振るも、昨日と今日では言うことがまったく違う。だから、振られたほうは、どうしたらいいのか困ってしまう。そんな状態のなかで、このままではいけない、このままでは自分はもうこの会社にいられないと思ったのが、Cさんです。
組織をよくしたいという思いを強く持っていたCさんは、そのために何をすべきか見出すために、トップをよく観察しました。
Cさんはタイミングを見計らい、伝えたいことを伝えようとトップとのコミュニケーション頻度を高めるとともに、チーム内でもコミュニケーションをまめに取り、1on1の時間も設けることに。風通しがよくなり、動きやすくなりました。
ナンバー2は、できていない自分が駄目なのではないか、下のスタッフを守れなかったなど、自分を責めがち。その状態は、自分の軸を揺らがせ、事実を正しく見えなくさせてしまいます。
Cさんは、まず揺らいでいた自分の軸を作り始めました。組織の中で何をしたいのかを明確にしたのです。そこから、自分に何ができるのか、どんな貢献をしたいのかが見え、自己肯定感も増してきました。
心が折れそうになったら
心理的安全性を担保するために心が折れそうになってる人が社内にいたら、トップは対話を。そのために目を配り、どんな状況にいるのかを聴くこと、彼ら・彼女らの成長にコミットすることです。
トップは、自分が思った通りに動くのがほかのメンバーの仕事だと思いがちですが、違ったことを持ってきてくれてありがたいという視点を持つことが大切です。
一方、心が折れそうな人は、思った通りにいかなくてもいいんだという許可を自分に出しましょう。何事も思い通りにはいかない。それでいいんです。
また、一足飛びに結果を求めないこと。心理的安全性は文化形成です。文化は生き物です。一度、心理的安全性を作るためのワークショップをやったからといって、心理的安全性は確立できません。今はスタート地点に立ったところです。それを育てていく、心理的安全性は一瞬にしてなくなるかもしれないと常に認識してください。
長期戦と思って取り組む中で見えてくるものもありますから、焦らずに取り組んでみてください。このスタート地点からしっかり育てていくことが、大切なポイントです。
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